彼は本当につっけんどん。冷たい。私にだけなのかはたまたそうではないのか。オーバさんに接してるときだって確かにそうだけど、他のジムのトレーナーの人たちにだってそうだけどなんで、私にだけは、目を合わせて会話してくれないんだろう。

ぼふんと休憩所のソファーに腰掛けた。きつくお気に入りのピカチュウのクッションを握りしめる。正直泣きそうだった。
私何かデンジさんに嫌われちゃうようなことした?ジムトレーナーにはまだなったばかりだけど、何か間違ったことした?
考えれば考えるほど深みにはまってしまって思考する事を止めたくなった。考えなければ悩むこともないのに。いつだってそうだった。最初にジムトレーナーとして入ることになったから挨拶に行ったときだって、改造の手伝いをしているときだって、私とは目を合わせてくれたことは一度もない。

「やめてやろうかな、このジム」

ぽつりと本音が零れた。コリンクをいっぱいいっぱい可愛がってレントラーにまで育てた。それは紛れもなくデンジさんに憧れていたから。それなのにいざとなってこうして近付けばこの様。正直つらい、憧れの人に嫌われてるんじゃ。

「そんなにやめたいのか、お前」

びくりと肩を揺らした。握りしめていたクッションをさらに強く握った。デンジさんはいかにも不機嫌ですよって顔に書いてある。いつもより数倍も眉間にしわが寄っていた。私は何も反論できない。そりゃ当り前だ。やめてやろうかなんて言われたら誰だって、

「…やめさせねぇからな」

「っ、へ…?」

相変わらず私の口からは間抜けな声しか出ないらしい。デンジさんの言葉に驚きを隠せない私は何故なのかと問う為にデンジさんの顔を見た。するとデンジさんの視線は逸らされて明後日の方向を向いてしまう。ほら、こうやっていつも目を合わせてはくれない。

「どうして、なんですか」

「少しは察しろよ、ナマエ」

目を合わせてはくれなかったけど、その時確かに彼は私の名前を呟いた。

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