チャンピオンロードの最奥、階段を駆け上がった先に見つけた人影はじっと僕を見つめていた。まるで何かを見定めるようなその視線に微かな苛立ちを覚えて歯を食いしばる。その人影を良く見れば華奢な体をした女の人で、僕と同い年か一つ上くらいだった。地面に座るその人は帽子のつばを少しだけ上げる。鋭い双方の目が僕を捉え、そして薄暗い洞窟の中に彼女の声が響いた。

「君はチャンピオンに挑戦しに行くのかな」

「そのつもりでこの洞窟を抜けてきましたけど、どうかしましたか」

座り込んだままだった彼女は口元を釣り上げて立ち上がり、埃を払う。そして静かにモンスターボールに手をかけたが、「君のポケモンが傷ついてちゃフェアじゃないね」と呟くと僕にポケモン用の薬を手渡してくれた。

「私はいつもここにいてリーグの挑戦者の準備運動の相手をしてるんだ」

「それはあなたの趣味で、ですか」

「趣味と言えば趣味かな。でもアデクさんに頼まれて、ここで見定めてくれってね」

その謎めいた言葉に僕は首を傾げつつ、彼女からもらった道具でポケモンの手当てをし終えた。僕が立ち上がると共に準備はいいかな、と問いかけた彼女は勝負を仕掛けるつもりなのだろう、僕もジャローダをボールから出した。

「私はナマエ。私に勝てればアデクさんに勝てる可能性は確実にあると思うよ」

「…その自信はどこからくるんですか」

「私がアデクさんに勝った張本人だからね」

帽子を外した彼女は笑みを浮かべてボールからシャンデラを繰り出した。その笑顔が忘れられないのは負けてしまったからじゃない、多分一目惚れ。

(その日から僕は何度も何度も彼女と戦う為に足を運ぶのだ)

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