「…Nはさ、もっと物事を楽に考えていいんだよ」

レシラムの隣に並んだ彼女はそれ以外は何も言わずに、ただただ僕に語りかけた。その目で、その心で。
今まで自分の求めてきたもの。ポケモンの開放。トモダチと呼べる唯一のもの。だからこそ僕は何かをしたくて、何かを求めていた。その『何か』って今思えば何なのだろう…
それさえも、分からないくらい記憶からは消え失せていた。

――N様、新しいおもちゃですよ。

――N様のお好きなお菓子でございます。

欲しいものは何でも手に入った。何でもというのは少々違うかもしれない。そう、『欲しいもの』の『もの』とは『物』のこと。だから僕は次第に覚えていった、募らせていった。

(僕が欲しいのは『トモダチ』だ)

ポケモンの『トモダチ』ももちろんだったけど、そうじゃなかったんだ。一緒にお菓子を食べてくれる『友達』、一緒におもちゃで遊んでくれる『友達』。僕が求めていたのはきっとそう。

「君みたいな…ナマエみたいな『友達』が、欲しかったんだ」

僕の口から出たその言葉を呟くと頬に冷たいものを感じた。それでいいんだと彼女の柔らかなアルトが響く。
腕を広げて立ったナマエは満面の笑みを浮かべながら一歩一歩僕に近づいてあと数メートルのところでぴたりと足を止めた。

「さぁ、N。ここからは君が選択する番」

「選択…?」

「私は君を受け止めてあげたい、そんな『友達』に私はなりたい。それをNは受け入れるのか否か」

選ぶのは君自身だよと真っ白で無垢な笑顔で彼女は両手を広げて待っていた。
僕は迷うまでもなかった。足は意識よりも先走って進んで、気付いた頃には温かな雫が目から溢れ出た。

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