何も考える事が出来なくなった。頭の中を支配し続けるのはエスカバくんのことばかり。
土砂降りに近い豪雨の中、私はぽつりと一人で立ちすくんだ。

不意に、危ないという叫び声が聞こえたような気がした。
思考の働かない私にその言葉ははっきりと届く事はなかった。

『俺は嫌いだ。お前みたいな自分自身を理解しなくてうじうじしてる奴が一番嫌いだ』

エスカバくんの言葉が耳から、頭から離れてはくれない。
絡みついて離れない言葉に胸が痛む。私があんなことを言ってしまったから。
けれど私は胸を張って今の自分を好きにはなれない。…なれないのだ。

エスカバくんは私を嫌いになってしまっただろうか。幻滅しただろうか。
何一つ、自分を好きになれない私。

空を見上げた時、工事中の鉄骨が私の頭上から降り注ぐのが見えた。
落下する先は私の真上。不思議な事に恐怖心は全くなかった。

「……私、もう、…やめてしまいたい」

この生も、すべて。私が呟くのと同時にとてつもない音が響いた。


放棄