梅雨の季節になり、雨雲が空を厚く覆ってしまっていた。
明るいはずの外は雲の陰りで灰色となり、どんよりとした表情だ。
ぼんやりとそれを眺めていると、雨に降られてしまった。
案の定、ずぶ濡れだった。

もうこれから乾かすのも大変だと思った私は気分で射撃場へと立ち寄ってみた。
静かに集中して、弾を打ち込み、的を射るのが好きだった。
現実もこうしてうまくいけばいいのにと一人で悪態をついた。
からん。空薬莢が地面へ落ちる時の音。その音を聞くと不思議と落ち着いた。

「わ、っぷ…!」

「ずぶ濡れのままで何してんだよ」

投げつけられたのは柔らかいタオル。
エスカバくんの手が私の髪をぐしゃぐしゃと拭っていった。

「あ、の、!射撃してるの、見ていたんですか?」

「ああ、ちょっとな。お前はもっと自信持てよ」

「っ、でも、私なんか到底…」

絶対、役に立つことなんてできない。不幸体質ですから。
その言葉が彼の癪に触ってしまったのだろうか。
そう呟いた私の顔に掠れそうになるほどの距離に拳が飛んできた。
ゴッ、と鈍い音。壁に私の背中はぺったりと貼りついて、彼の拳は壁へと当たっている。

「…いい加減にしろよ」

「エ、ス…カバく…」

「俺は嫌いだ」

その時確かにぐさりと。彼の言葉が突き刺さったように思えた。

「お前みたいな自分自身を理解しないでうじうじしてる奴が…一番嫌いだ」

そう、その一言だけを呟くと彼は射撃場から去っていく。
全身の力が抜けてしまった私に、彼の背中を追いかける事は出来なかった。


理解