「よくあることってどういう意味なんだ?」

私の膝に消毒液を塗りたくりながら、バメルさんが言った。
うまい説明が見当たらないというか、何と説明すればいいのか。
簡単な単語で表すのならぴったりなのは、「昔からの不幸体質、なんです。ここ一番って時も、普通に過ごしてても…すぐに何か仕出かしたり、ケガしたりで」

鈍臭いからと忌み嫌われる事もあった。私の不幸体質でケガをさせてしまう事もあった。
それでも友人達が離れていかなかったのはどうしてだろう。

「お前は恵まれてるよな」

「……え?」

「さっき、お前と医務室来るまでの間に声かけられただろ?それだけお前は恵まれてるよ。お前の人柄で離れていく奴、そう多くはいねぇと思うけどよ」

医務室へと向かうまでの間、私はクラスメイトに声をかけられた。「またお前転んだのか?」「ほんっと、ドジだなぁー」なんて言葉を笑いながら。それでもその後に「頑張れよ」と言ってくれた。それだけの話。

私にはバメルさんの言ってる言葉の意味をよく理解できなかった。けれど彼がぽつりと呟いたのだ。「心配されて手を差し伸ばしてもらえるのはいいよな」と。
私は周りの人にいつも迷惑ばかりかけてた。差し伸べられる手はみんな同情だと、嘲笑っているのだと、思っていた。

彼は、どうだろう。

学園全生徒の中でも成績優秀。そんな彼だからこそ妬みや恨みを買う事のほうが多いはずじゃないか。

「それなら私が、バメルさんに手を差し伸べます」

ぴたりと静止するバメルさんの手。消毒の浸み込んだガーゼが傷口の上で止まった。
ひりひりとした痛みに耐えながら、目を丸くして私を見据えるバメルさんに対して、私は言葉を続ける。

「私は昔からこんな体質で、誰かの役に立てた覚えがありません。それでも、少しでも力になれるなら、私はバメルさんに手を差し伸べたいです」

些細な力にさえなれないかもしれない。私の不幸体質が逆に仇となってしまうかもしれない。
それでもやりたい。できることをしてみたい。…そう、思った。

「エスカバ」

「……、え?」

「エスカバで構わねぇよ。バメルさんなんて呼ばれんの、慣れねぇし」

「あの、えっと、バメ、…エスカバ、くん」

「…ま、合格点ってとこか」

笑顔を浮かべて笑う彼に言われた「よろしく頼むぜ」という言葉は、今でも色褪せる事なく私の耳に残っている。


鮮明