ばらばらと散乱するのは紙の束。打ちつけてしまった膝がじんじんと痛むけれどそんな事より早く集めなくてはと資料に手を伸ばす。
わたわた慌てる私の目に、白い手袋をつけた手が伸びたのが映し出された。
顔を上げるとそこにいたのは確か学園トップクラスのバダップ・スリードさん、だったかな。
拾い上げられた紙の束を手渡されて、私は頭を深々と下げる。

「…大丈夫だったのか、頭は」

「えっと、大丈夫だったみたいです。よくあることですし…スリードさんが蹴ったんですか、私の頭にぶつかったボールって」

問うと彼は首を横に振る。「体を動かす程度でやっていたのがコントロールをミスしたんだ、他の奴が」と言った。
付け足すように「君を運んだのは当てた張本人だが」と呟く。

「あ、あの、その人にお礼がしたいんですけれど、教えていただけますか?」

山積みになった紙の束を抱えてスリードさんに言えば目を丸くしてこちらを見る。

「君が礼を言う事でもないだろう?あいつに非があったんだ」

「それでも運んでいただいたわけですし…スリードさんがお暇であれば」

彼は私の言葉に溜息をひとつ落として、私が手にしていた書類の束を半分手にして背を向ける。
ついてこい、とは言わなかったけれど多分これが彼の肯定なのだろう。

「資料まで持っていただいて、すみません、スリードさん」

「バダップで構わない。同学年だろう?」

「わかりました、これからそうします」

私は背中を追いかけるように歩きながら、ご本人に会ったら何と言おうか迷っていた。


目前