土の匂いが鼻につく。じんわりとした熱が頭のほうに集まっては熱を発している。
うっすらとする意識を正常にしたのは消毒用のアルコールの臭い。
目を覚ました先にあったのは一面の白。
ゆっくりと体を起こす。泥まみれの水溜まりへと倒れ込んだはずなのに、綺麗なシャツをいつの間にか着てる。挙句ここは見覚えのある医務室の中だ。

「あら、目が覚めたのね」

白衣を身にまとった仲のいい教官が私に声をかけては「今日一日だけで2回も来るなんてね、」と皮肉を言った。私は返す言葉もなく黙っているしかできない。
ふと窓辺を見ると、そこには桜の木が道に沿って何本も立ちすくんでいた。
少しだけ開け放たれた窓からひらりと入り込んできた花びらをひとつ手に取る。

「……そうだ、私、進級できたんですね」

「ええ、そうね。あなたにとってこの学園で3度目の春、ね」

私もびっくりしたわ、という彼女はにっこりと笑いながら後頭部の傷に触れる。
あまり痛みは感じないから大したことはなかったのだろう。

「あの、私…どうして医務室に?」

「あなたを担いできたのよね。顔は見えなかったけれど…」

「担…いで、ですか!?わ、わわ、私重かったかも…!」

大丈夫よぉ、なんて間延びした教官の声。それどころじゃなく私は担いでくれた人に申し訳なく思ってばかりだ。まぁ、確かに軍事学校であるわけだもの、それなりの筋力は確実にあるだろうけれども…。

「もしその本人が現れたらお礼言いなさいね」

教官の言葉に頷いて、私はもう一度窓の外へ目を向けた。


花弁