ひらひら。淡い桃色の、ハートの形をしたような花びらが無数に舞っていた。

あれから、どれだけの日々を過ごしたでしょうか。
あの日から、もうすぐ4度目の春を迎えようとしています。
私の中の思いは変わらなかった。
ずっとずっとエスカバくんでいっぱいに埋め尽くされていた。
好きで好きで仕方がなくって。
自立して指揮官を目指している間も、私の不幸体質が災いして何度も挫けそうになった。

それでも頑張れたのは今日こうして、


「名前!」

ふわりと、風が吹いた。声の先を見れば、そこにはあのときの面影をうっすら残した姿が見えた。
背丈も伸びて、少し幼かった顔も大分大人びて、もっともっと逞しい姿。

「エスカバくん」

「やっとまた、同じだな」

「そうですね。…やっと同じものをまた見れる時期が来たんですね」

エスカバくんの顔は見上げなくては見えないくらいになってしまった。
でも相変わらず、彼の中身は変わっていない。
頭を撫でられた。これはどうやら彼の癖らしい。私を励ます時だっていつもこうして撫でてくれたのだ。
その自然な行動に私の頬が緩む。「何笑ってんだよ」と、エスカバくんが少し頬を赤めて言った。

「私、やっぱりエスカバくんが好きです」

「っ、お前…!」

「好きで好きで、仕方がないくらいに大好きなんです。だから、」

「ちょっと止まれ!…その先、俺に言わせろ」

エスカバくんがかしこまったように咳払いをひとつ。真っ赤に染まったまま、けれど私を真剣に見つめて、口を動かして言葉を紡いだ。

「名前。……お前は覚えてねぇかもしんねぇけどよ、オペレーション・サンダーブレイクの後、お前が俺の事手当てしてくれたことあったんだぜ?」

「そ、うなんですか…?」

「そうなんだよ。…それで、その時にお前に惚れた。『あなたの手って、今は冷たくても温かい手ですから』って、お前に言われて」

――確か、誰かに言った事があるような気がする。
その時はまだ、自分に自信を持てていない頃だったから相手の顔なんてよく見ていなかったけれど。
ぶっきらぼうで、傷だらけの無理をしていた黒髪の少年。あれが、エスカバくんだったとは。

「それから3年の春にボールぶつけて、またお前に会えて…正直、すっげー嬉しくて。お前とずっと一緒にいたいって思った」

だから、と言って一度エスカバくんは言葉を止める。
私がそっとエスカバくんの方に乗った桜の花びらを取ったからかもしれない。
とても至近距離に来ていて、我に返った私も真っ赤になった。

「…っ、だから、俺と一緒にいてくれ」

エスカバくんはそう呟いて、私の答えなんて聞かないで口づけをした。
私も肯定を意味するように拒まずにそのままエスカバくんに任せる。

「相変わらず熱い熱い、ねぇバダップ?」

「……本人達がいいならいいのではないか」

「っ、お前ら!いつからそこに…っ!」

バダップくんとミストレくんがひょっこりと顔を出す。
勢いよくエスカバくんが離れてしどろもどろしながら真っ赤になっていた。
私はそれを横目にしてくすくす笑う。笑うなって怒られてしまった。

「ねぇ、エスカバくん」

私は少し背伸びをしてエスカバくんの耳元で囁く。


「大好きです、エスカバくんの事が、前よりもずっと」


ひらひらり、桜のシャワーが降り注ぐ中で、私は思いを呟いた。


終幕