私はある部分にとても優れていた。優れているとは言えど、それはまったくもって私を幸福に導くものでもない。
むしろ恵まれないものだった。
簡単に言ってしまえば所謂、不幸体質。私は何かと巻き込まれる事が多かった。
根暗で、間抜けで、鈍臭くて、トロくて…言えば上げ切れない自分の短所にもはや溜息さえ洩れる事はなかった。
そのせいでどれほど傷ついてきたかなんて、今更数えることなどできない。

……けれど、この王牙学園に入学し、進級できたのも何かの奇跡なのだと思う。自分でも不思議なくらいで、驚きで。

『つらくなったらいつでも帰ってくるんだよ』

『いつでも待っているんだからね』

そう言って送り出してくれた両親の顔がふと脳裏をよぎる。私、まだ大丈夫みたいです。
銃の訓練を終えて、今日の授業はすべて終了。今は放課後で教室には誰も残っていない。急いで宿舎に戻ろうと鞄に教材を突っ込む。途中転びそうになりながらも駆け足で校庭の隅を横切る。

今や危険思想であると称されていたサッカーは人々に受け入れられ、浸透していた。それは一種の心を通わせるスポーツとして。ヒビキ提督が出したオペレーション・サンダーブレイクは失敗に終わったそうだけれど、主力メンバーの生徒達がまさに改革を起こそうとしているそうだ。
関わりもなく、ましてや知っていても声をかける事さえもできない私は噂で聞いた程度の知識しかない。……私には、関わりのないことだろう。いつもそう思っていた。

不意に、叫ぶ声が私の耳に届いた。

「……っ、ぶない!!」

声が耳に届く。『ぶない』?まさか、『危ない』って言おうとしてたんじゃないかな。そう考えながら私は振り返ろうとする。

ガツン。

振り返る間もなく、鈍い音が聞こえて後頭部に痛みが走る。ああ、もしかして何か私にぶつかったのかな。
何が起こったのかを明確に理解できないと悟ってか、脳は考えるのを諦めた。

まどろむ視界を見ながら客観的に考えて、目を閉じた。
地面が冷たい。ああ、水たまりに倒れちゃったみたいだ。


遭遇