最初は既に割り切っていたつもりだった。 自分の頭の中では自己解決していたはずだったのだ。 だがそうだというのならば、 「バダッ、プく、ん?」 この状況は一体何だというんだろうか。 俺はいつの間にか名前の手を掴んでいた。彼女の手はひやりと冷たい。 その冷たさでなんとなくではあったが自分の意図が分かった気がする。 温めてやりたかったのではないかと、少しずつ今に至るまでを思い出した。 「まだ冷え込んでますね」 少し間延びした声で名前が外を見ながら呟いた。 そろそろ帰るのであろう、マフラーを首に巻きつけてひらひらとなびかせる。 「帰るのか」と手短に問いかければ彼女は縦に首を振る。 時計は5時をさしていたが冬ともなれば日が沈むのも早く、辺りは既に真っ暗だった。 そろそろ切り上げようと俺も帰る事にして名前と昇降口へ向かった。 外へ出ると冷たい風が頬を掠めていった。名前が少し身を震わせて寒いと呟くのが聞こえた。 マフラーはしているものの手袋はしておらず、白い肌が晒されていた。 そこで冒頭に戻る。 「…冷たい、な」 「昔からちょっと、手足がすぐに冷えちゃうんです」 「そのままでは寒いだろう?」 「えっと、大丈夫です。バダップくんの手、あったかいから温まりました」 ありがとうございます、と笑みを浮かべながら言う名前に、心拍数が上がるのを感じた。 名前は無自覚だろう。だからこそ性質が悪い。 お前は既にエスカバに惹かれているのにまだ気づいていないのか。 あまり無防備に笑うとエスカバが妬くぞ、と考えると噂をすればというかのようにエスカバの視線がこちらに向いた。 「お前も早く、したらどうだ」などと声を出さずに訴えればバツが悪い表情でエスカバが目をそらした。 「どうかしましたか?」 「いや、何でもない」 残されているのは指折り数えの指が2本折れるほどの月日。 そろそろ拍車をかけてやらないと終わってしまう時の流れに、呆然と思う感情を抑え込んだ。 抑制 |