エスカバが完治して復帰してからの日々は慌ただしく過ぎていく。
それもそのはず、オレ達は士官学校最後の年を迎えている。

ここから先の進路はいくつかに分かれてしまう。
戦場に赴く者として進むか、戦場に赴く者を支える役を担うか、だそうだ。
はたまたそれとは別にこれからは平穏に生活したいという奴もいる。
王牙の機能は少しずつ方向性を変えてきたのだ。
1年前のオペレーション・サンダーブレイクを境にオレ達が掲げた思想が浸透しつつあった。

『本当の強さとは武力でも頭脳でもなく、心だ』

何十年もの前の存在が教えてくれた思想が広がり、自分自身と向き合う機会となったのだと思う。


「オレはもちろんこのまま戦闘兵の進路にするけど。
 バダップとエスカバもそうだったよね?」

「あー、まぁな。今から支援方向に進むのとか考えられねぇし」

「エスカバが支援兵などと想像したくないな」

「確かにエスカバに治療されたくないね」

「どういう意味だよ!」

そんなバカみたいなエスカバは放っておいて、気になるのは名前のほうだ。
オレは熱心にノートにペンを走らせている名前のほうを見る。
いつになく真剣な表情でやっているのはデータ収集だろう。
候補生の個体データ、筋力やらなんやらがデータ化されて管理されている。
それによって候補生のカリキュラムをすべて変えていってるそうだ。
それをひとつひとつまとめていくのは名前に任せている。単に教官たちの仕事の押しつけだとは思うけど、名前のデータ収集のスピードは教官たちに比べて速いから効率がいいのだろう。

「ねぇ、名前はどうするの?」

オレがそう問うと資料から目を離し、俺の方を見た名前はちょっと困ったような様子で「まだ悩んでるんです」と一言。
彼女いわく、「射撃は何とかなりますが接近戦がどうも苦手で、かといって治療とかが正確に手早くできるというわけでもなくて、迷ってます」らしい。

「じゃあ指揮官目指せばいいんじゃねぇの?」

「指揮官、ですか?」

あー、納得。名前は分析とかするの得意だしね。
そのデータを上手く使えば軍事力高い部隊になるし、エスカバにしてはいいアドバイスじゃん。
そんな風に言ったら嫌味たらしく聞こえたのかエスカバがオレの頭殴ってきた。うわ、暴力反対。

「指揮官、かぁ…」

そんな事を言いながら名前が窓の外を見て、「あ、」と声を漏らした。
その声に反応してオレもバダップもエスカバも外を見る。

「初雪ですね」

白い粒がひらりと舞うその景色。窓を開け放って手を伸ばせば雪が触れる。
こうしてバカみたいに過ごせるのもあと少し。春が来れば、オレ達は道を違えるのだろうか。

少しでも冬が長く続けばいいのにと柄にもなく思ってしまった。


進路