初めてあいつが俺の病室に入った時。
俺は言葉にすんのが上手くできねぇから表現しきれねぇけど、とりあえず嬉しかったのは事実だ。
あいつの顔を見たのが久しぶりで(それまで腐るほどバダップとミストレの顔は見た。ときどきサンダユウとかも来た)何とも言えない感情で埋め尽くされた。
見たところ怪我も大した事がなくピンピンしてそうで安堵した。
それからはかなり順調に回復して秋に入ってからは既に学校に復帰できた。

あの時、あいつがあのまま下敷きになってたら俺は心底自分を恨むだろう。
名前の態度に苛立っていたのは確かだが……『嫌いだ』と、言ってしまった事に対してあの時の自分を殴りたい。
名前が思いつめる人間であることは十分に理解していた。
それが引っ掛かってあいつを見に行ったらこの様だ。

自分が死んだとしても、守りたいと思ったのは俺が単に名前に惚れているから。
きっとこいつは覚えてない。

失敗に終わったオペレーション・サンダーブレイクから帰還した後。
いくら軍人だとしても体の異変は既に進行していて、気付かぬうちに痛みを蓄積させていた。
廊下を歩いていた時にその反動を感じて体が軋み始め、足がもつれた時。
声をかけてくれた一人の女の声の主は俺を医務室に連れ出した。
声の主は一つ一つ丁寧に俺の体を確認しては治療する。
懸命なその姿は、80年前の円堂と少し似通っているように感じた。

『…体中、欠陥だらけの状態になっています。無理をなさっていたんですね。
十分な休養も取れていないし、血行もあまりよくない…
少し、休んでいってください。体を痛めては大変ですから』

『……お前に指図される覚えはねぇよ』

『ここは未来の軍人を育てる場所…だからこそ自分を大切にするべきです。
死に急ぐ必要はありません。それに、』

――あなたの手って、今は冷たくても温かい手ですから。

一年経っても忘れていない。あの時の笑った顔が全てを奪っていったから。

「どうしたんですか、突然笑って…」

「っ、何でもねぇよ!」

「何でもないのに笑ってるんですか?おかしなエスカバくん」

「お前に言われたくねぇな」

「酷いです…」

季節は赤く色づいた葉が一面を染める秋。


忘却