私はいつまでも弱いままだった。誰かに背中を押してもらえなければ進むことはできない。
全部全部、自分の不幸体質のせいと言い訳をしては何かしようとも思わなかった。
それが私の最大の汚点。欠点。
不幸体質は確かなものだ。それを乗り越える精神の強さが私には欠けていた。

だからこれは、乗り越える強さを持つ為の第一歩なのかもしれない。

うるさいほどに心臓は喚き散らす。呼吸がいつもより速くなる。
私はその先にあるものが怖くて開ける事の出来なかったそのドアを叩いた。

『どうぞ』

ドアを隔てて聞こえる。何ヶ月も聞いていなかった声。エスカバくんの声。
私を躊躇わせる何かはぷつりと切れた。気がつけば私は勢いよくドアを放ち、エスカバくんの前に立っていたのだ。

「エス、カバくん…」

隙間風で翻るカーテンで彼の姿は隠れていた。風が少しずつ弱くなり、ぴたりと止む。
その先にある彼の姿に私は泣いてしまいそうになった。
痛々しい包帯と真っ白なベッド。落ち着いた淡い青の服。
こうしてしまったのは全て自分のせいなのだと思い知らされた。

エスカバくんは何を、思ったのだろうか。

少し冷たいごつごつした手が私の頬に触れる。
そのままエスカバくんの顔が近付いた。私は咄嗟に目を瞑る。

「…目、瞑るな、バカ」

「ごめん、なさっ」

「謝らなくていい。だから、目開けろ」

恐る恐る目を開けると同時に額に何か柔らかいものが触れた感触。
エスカバくんは目を開けた私を見つめて、笑みを浮かべた。

「お前を守れてよかったよ」

言いたい事は山ほどあったはずなのに、彼の一言で私の脳から飛んでしまったのです。

――ただ、ひとつ飛ばなかったのは。


『エスカバくんがいないと私は駄目みたいです』


一言