どうやら彼女は相当鈍感で、根暗で、後ろ向きな思考で、馬鹿であるようだ。

前から分かり切っていたこと?確かにそうだ。
オレは知ってる。分かり切っている。もちろん。
今回知ったというのはその鈍感さ、根暗っぷり、後ろ向きな思考、馬鹿さ加減がどれだけ救いようのないものであるかってこと。

病室の前に立っている名前の姿を何度も目にした。
ドアノブに手をかけては離し、また手をかける。
そして結局何もせずにただ一言、「ごめんなさい、エスカバくん」と呟いて帰る。

オレはその姿を何度見ただろうか。その度に何度溜息をついたことだろうか。

何をそんなに躊躇う必要がある?
エスカバが名前を助けたのは名前が好きだからに決まってんじゃん。

何をそんなに躊躇う必要がある?
嫌いな人間を身を粉にして助けるほどエスカバはお人好しじゃないし。

本当に救いようのない、

「――…レくん、ミストレくん、あの、話を続けてもいいですか?」

名前がオレを呼ぶ声で我に返る。
近日中に行われる狙撃大会のチーム戦での練習をしているところだったんだ。

「ごめん、続けていいよ」

「あ、はい。この大会は的を狙うのではなく実戦形式の撃ち合いで行われるので、司令塔が必要になります。
 それに合わせた作戦を練らないといけないと、パダップくんも」

「そういうパターンだとエスカバのほうが向い、」

エスカバという名前を聞いた瞬間、名前の表情が曇る。
それ以上の言葉を紡げなかった。やってしまった。自分の不覚だと思った。
何でそんなにオレが気負う必要がある。それは名前を傷つけたくないと、思ってしまったから。
それでも彼女の気持ちは、意識は既にエスカバに向いているから。

「――名前は今のままでいいの?」

「…ミストレ、くん?」

「君が何をしようが、どう思おうがそれは君自身の好きにすればいいとは思う。
 でも、今のままで本当にいいの?それが最善?後悔は、してない?」

「……私は、弱虫だから。拒絶されるのが怖くて、否定されてしまわないかと…」

俯く彼女の顔を両手で包んで、オレの方を向かせる。
うっすらと涙を浮かべていた。本当に弱虫なこの子はどうすれば理解するのだろうか。
オレもそんな言葉で諭せるような人間ではないからどうすることもできなくて、彼女を抱きしめた。

「どうするか決めるのは名前自身だから。それでも、君は一人じゃない」

慰めるように名前の額にそっとキスを落とす。

どうすれば。
この腕の中にいる存在がオレを好いてくれるのかなんて考えてしまうあたり、オレは末期なんだろう?


弱虫