あれから、どれくらい無意味に日々が流れていったのだろうか。

あれから、どれくらい距離が生まれていったのだろうか。

あれから。

あれから、私にひとつの感情が生まれそうになっていた。

それは決してまだ、完全な形を持ってはいなかった。
不完全のこの感情にはうまく名前を付ける事が出来ない。
留めておくべき感情であるのか、捨ててしまった方がいい感情であるのか。
不完全なこの存在を判別することはまだできなかった。

木の葉が赤く色付き始める頃。
病室の扉の近くにある窓から見える花壇にはコスモスが咲いていた。
淡く色付いた桃色、純白のような白。
全てが、綺麗に私の目に映し出された。

そんな中。私はただ、目の前の扉を開く事が出来ずに立ち尽くしていた。
エスカバくんの病室の前。
もう三ヶ月も前の話にはなるけれど、彼はまだ完治していない。
それだけ重体だった。それだけ、私が彼を傷つけた。
下手をすれば彼は死んでしまっていたかもしれないというところまで。

だからこの三ヶ月、私はこの扉を一度も開く事ができていなかった。
エスカバくんに会ったらどんな顔を見せればいいのか分からなくて。
私はろくに話す事も出来ないから迷惑だろうし。
だから今日も、扉の先には行けない。
行くことが許されるのかも分からないから。

いつも通り、私は一つの言葉を呟いて扉を背に足を進めた。

「ごめんなさい、エスカバくん」


未完