Please say to me |
二人きりになるという事は本当に指折り数えできるほどしかなかったような気がする。 容姿端麗、全面的に器用。スポーツ万能で女子の注目の的。 当たり前のように彼の周りには女子が集まり、囲まれてちやほやされてる。 その風景を目にする度に、彼と何度も目が合った。 私はそれを快くは思っていなかった。だから彼を避けていたのかもしれない。 放課後の清掃当番になった私と吹雪士郎。 長い間沈黙だけが教室という空間を支配していた。 それを打ち破ったのはもちろん吹雪が先だ。 「苗字さんと話したことってあんまりないよね」 「そうね、必要最低限の時しか話してないかな」 「あまり大勢の人がいるところ、嫌なの?」 「…そういうわけじゃ、ないんだけど」 自分の本音をさらけ出す事も出来ずに留めたまま、心臓は苦しさを増す。 この沈黙が嫌で、耐えられなくて。私と彼はやはり相性が悪いんだろうと思う。 「僕は苗字さんと話したいんだけどね、ゆっくり」 「なんで?私なんかより他の子と話してる方が話が合うと思うけど…」 「苗字さんとよく目が合う理由、分かる?」 そんな唐突に言われても。私は吹雪から目をそらして床を掃いた。 「苗字さんの事、見てるから」 手にした箒がカランと倒れた。吹雪は落ちた箒を拾い上げて私の手に収める。 「馬鹿じゃ、ないの」若干上ずった声で私は呟く。 「放課後掃除に感謝だね」 「…知らない」 ――― 吹雪に「放課後掃除に感謝だね」と言われたい |