Please say to me

なんとなくあまりよい状況ではないと心の中で思った。
いや、でもぶつかってきたのはこの人、通りすがりの先輩であって。
私はむしろぶつかった衝撃で転んでしまったわけで。
手のひらもすりむいて血が滲んでいるわけで。
それなのに、どうして私が追いつめられてるんだろうか。

「す、すみません、でしたっ!」

逃げるが勝ち。というよりは逃げなければいけないなんて衝動に駆られて駆け出す。
追いかけてくるのは当たり前で逃げ切れるかどうかは運任せだった。

「こっち来い!」

不意に聞こえたその声に私は従った。
聞き覚えのある声、エスカの声。前方に見えた彼の姿に私は一目散に走っていく。
そのままの勢いでエスカに抱きついた。
追いかけてきた見ず知らずの先輩がぎろりと目線を向けてくる。

「悪いな、こいつは俺のものだから」

エスカの視線と声。かくまってもらっている私でさえたじろぎそうになってしまう。
先輩はというと踵を返して逃げてしまった。ざ、ざまあみろ!

「…おい」
「へっ!?」
「お前はいつまで抱きついてんだよ…っ」

我に返った私はすぐに身を引き離す。それよりも耳に鮮明に残っているさっきの言葉。
おいおい、私エスカの彼女でもないのにあんな事言っちゃっていいものか?

「さっきの言葉、聞いてたよな」
「……俺のものって、やつ」
「あれ、本気」

一瞬でエスカは私の心臓をかっさらっていった。

―――
「悪いな、こいつは俺のものだから」と言われたい


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