Please say to me |
それにしても恐ろしい人の波。アメリカの街にぽつんと立ち竦む影。 不安げにゆらゆらと揺れるそれは、私だ。 人探しをしていた。大切な人を待っていた。きょろきょろ動き回る目が定まらない。 見つからないのだ、こんな大勢の人の中。ううん、見つかるわけがない。慣れてないんだもの。 肩を掴まれた。息が止まった。 男の人の手。振り払って何も考えずに人の群衆の中へ入る。 いとも簡単に掴まれた私の手。怖くて振り払おうとしても払えない。手を爪でひっかいた。 「っ、俺だから安心して」 私が顔を上げた先にいたのは、紛れもない探している人だった。 マークは私の身を引きよせてくる。それからは何も考えられなくなった。 ただ首筋に小さな痛みがうずくのだけを感じ、私は小さく声を漏らす。 「何、して…っ、マーク…!」 「何って…今のは害虫駆除なんだよ」 ぺろりと口元を舌舐めずりした彼は鋭い目つきで遠くを睨む。 冷やかな鋭い眼光が少しずつ和らぐと張り詰めた空気が緩んだ。私の気も抜ける。 「すまないことしたな、ごめん」 柔らかく笑ってそう言った彼に、私は羞恥を隠せずにいた。 ――― 「今のは害虫駆除なんだよ」と言われたい |