私が彼らを蹴ったのには理由がある。(半分は無意識のうちにだけど)
私みたいな凡人が何故呼ばれたのかも気になりはしたけど、それよりももっと重大な事。
誰だって思うはず。一度は戦いたいって闘志が湧いた。

「負けるのは理解してるけどね」

もちろん負けたその時は彼らの命令を受け入れるつもりだ。それにやっぱり自分自身より強くない人間の命令なんて聞く気になんてなれないし。
執行室から飛び出して十数分。エスカの声が近くから聞こえた。私は物陰に身を潜める。

「何ボーっとしてるの、ミョウジ」

背後には人影。耳元から響く声。私は勢いよく振り返って後ろへ後ずさる。
弾みをつけてから右足を振り上げて足をすくおうと試みるが、さすがはミストレーネ。いとも簡単にはじかれて足を取られた。
にんまりと余裕の笑みを浮かべたミストレーネを睨みつつ、間合いを詰めて思い切り頭突き。っ、自分でやっておいて何だけど頭痛い!
怯んだ弾みで解放された右足で腹を蹴り飛ばした、けれどすぐにミストレーネは体勢を立て直す。恐ろしいくらいだった。
階段を下ったのはいいが、絶対飛び降りたほうが速い。下った先にはエスカの姿。しかもあいつ…!

(何アレ、麻酔銃持ってやがる…!)

下に下ってもエスカがいるからアウト。上には体勢を立て直したミストレーネがいる。逃げ場がない。
踊り場で立ち止まれば目に入った窓ガラス。…ああ、もう一か八かだろ。私は勢いよく窓を開けて枠に手足をかけた。

「っ、エスカバ!麻酔銃離せ!!」

「なっ…!バカかお前!」

パンッ。それは軽い破裂音。慌てたエスカがその弾みで引き金を引いたのか。麻酔弾は私に命中した。
痺れが回るのがあまりにも早い。窓枠にかけた手から力が抜ける。手が離れた。
私の体は外へと前のめりに、落ちる。エスカとミストレが叫ぶ声が遥か遠くに聞こえた。

遠のく意識の中で音が響いた。バキッ、って。

無意味な行動で深みにはまる