執行室と書かれた扉はいとも容易く開かれてしまう。ああ、これで終わってしまうのか、私の士官学校生活は。
今日この日から私はただのニートになるのですね、いっそサッカーやってやろうか。
うんと、あれあれ。危険思想の。『サッカーやろうぜ!』だよ、うん、そう。
そんな風に前向きに考えても結局逆効果だった。

…頼まれたのかな、連れて来いって。
そんな私の予想さえ、容易く覆されてしまうのだ。

「彼女がナマエ・ミョウジ。バダップが見定めた子だよ」

教官じゃ、ない。どうして学園一位のバダップ・スリードが執行室の教官専用の椅子に腰かけているんだ。
掴まれたままの両腕なんて気にならなかった。ただ、椅子に腰かけたバダップの視線が突き刺さり続ける。

「ナマエ・ミョウジ、我々の命令に従ってもらいたい」

ポーカーフェイスの彼の声が耳に届いた。今、なんて言ったの。命令に従え?……そんな馬鹿な話があるか。
気がついた時には、足が勝手に動き出していて両腕を抑えていたミストレーネとエスカを蹴り飛ばしていた。
初対面で蹴飛ばすなんて最悪だ、私。そんな事を頭の片隅に思いつつ、全力疾走で飛び出した。


「っ、はははっ!!まさか女の子に蹴られるなんて思ってなかったよ!」

「予想以上に馬鹿力だぜ、あれ。追いかけんのか、バダップ?」

壁に強く背中を打ちつけたミストレとエスカバが立ち上がったのを確認して、考える。
脱走するとは予想外だった。それにあの蹴りの威力。申し分ないほどの能力をミョウジは備えている。
大きな戦力となるのに間違いはないだろう。

「エスカバ、ミストレ。ミョウジを探してくれ。……あいつには俺達のチームへと入ってもらう」

奴が逃げたのには必ず理由があるはずだ。脱走されたのもこちらの説明不足が原因だ。
聞き入れなかった場合は…後で考えるとしよう。
了解と敬礼をしたミストレとエスカバを見て、俺達は執行室を後にする。空になった一室に隙間風が吹き込んだ。

予想を覆すなんて容易い