地面を蹴る音がやけに大きく聞こえた。それだけで十分というほど二人がどれだけ激しく手合わせをしているか理解できた。
先にすたすた歩いていくエスカバを追うようにして自動ドアをくぐり抜ける。
だだっ広い闘技場にはミストレとバダップしかいない。いつもの暑苦しい軍服を脱いで、タンクトップ姿で。

(意外としっかり筋肉ついてるな、二人とも)

「お前は何処に目ぇつけてんだよ」

「ミストレって結構細身だから…ってなんで人の心の中まで聞いてんの!?」

的確な突っ込みを入れたエスカバの顔を見れば「おまえがわかりやすいだけだっての」とけなされてしまった。よく言われるのが悔しい。

「あ、ナマエじゃん」

「寝起きか」

私とエスカバを見つけて手を止めた二人の姿を見て、私は苦笑するしかなかった。そりゃもう、二人ともぼろぼろなのだ。
我ながら濡れたタオルを持ってきておいて正解だと思う。

「ミストレ、ほっぺた切れてるけどいいの?」

「平気だよ。それにガーゼつけておくと女の子が心配してくれるし」

「……相変わらずだね。バダップも腕の傷、」

「後で手当てしておけと言うんだろう。分かっている」

ミストレはどこか嬉しそうに、バダップはいつもどおりの冷静な口調で私に返答しては、さすがに疲れていたのか地面に座り込んだ。
汗だくになった彼らを見ると不思議と笑みが零れる。

「どうかしたのか、ナマエ」

私を見上げたバダップに私は首を横に振る。

「ちょっと最初の頃のこと、思い出してたんだ」

あれはほんの数か月前のこと。今は終わってしまった『オペレーション・サンダーブレイク』が始まる前だった。季節はまだ、春だっただろうか。

綴られている過去の話