『たくさん迷惑かけてごめんなさい』

それは私が小隊へ戻ってきての第一声だった。嫌われるのも、蔑まれるのも覚悟してる。あの時はシステムに精神が乗っ取られていたとはいえ、殺すつもりだったのだ。何と言われてもそれはすべて私が原因。何も言い返す事は出来ない。

『……どうすんだよ、バダップ』

エスカバの問いかけに深く溜息をついて、腕を組んだバダップは私を見る。変に緊張感が襲いかかって私は何も言えずにいた。

『これよりナマエに命令を下す。内容は――』

バダップの次なる言葉に私は言葉を失い、ミストレとエスカバは安心したような笑みを浮かべた。

「…エスカバ、エスカバ!」

私が名前を声に出すとソファーに寝転んでいたエスカバは肩を揺らして目をそらす。巻きつけられた包帯がちらついた。その原因は自分だと思い知らされて胸が痛む。何もそれ以上話す事はできなくて唇を噛み締めた。
目をそらされてしまったのが少し悲しいと感じてしまうのはそれだけ私の中でエスカバの存在が大きくなっているからだろう。私は耳を傾けてくれているかもわからない彼の背に言葉を投げる。

「……システム本体は消されても埋め込まれたシステムは消えない。これから先何度だって、殺人衝動に駆られる」

その事を理解したうえで私はバダップからワクチンになるシステムの開発を命じられた。それにもしも作れれば私以外の被験者を救う手にもなれる。それでも今、本当に望んでいるものはひとつだった。

「…生体兵器を、エスカバは好きでいてくれる?」

隣にエスカバがいてくれる事。今まで気にかけていなかった。当たり前だと思っていた事。いつだって支えられていた。エスカバが好き。拒絶されても仕方ない。
絞り出した声が途切れる。急にこちらを向いたエスカバの頬は真っ赤で「恥ずかしい事言ってんじゃねーよ…」と口元を押さえて呟くのが聞こえた。私は何も言わずにエスカバの手を握り締めた。
ああ、どうしよう。今、生きてて良かったなって思える。

『あなたは座りました。自分の意思で数ある王座のひとつである、エスカ・バメルの隣へと。このひとつの終着点のその先に何があるかは…別の話。』

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