「エスカバが行きなよ、ここはオレとバダップで何とかできるしさ!」

「生憎、このくらいで死ぬほど俺達は柔じゃない」

荒くなった息を整えながら構えを取る。次々と絶える事なく襲いかかる被験者達。ほんの一瞬の隙に走り出せば何とか扉まで行けるだろう。

「「いっけぇええええええ!!」」

バダップとミストレの一蹴りと同時に扉まで一直線に走る。何とか扉の先まで滑り込む事は出来たが気分は良くない。

「……死んだら承知しねぇからな…!」

扉の先を走り抜けるとそこはとても広いフロアだった。ナマエの姿は見当たらない。何処にいるのかと神経を巡らせる。頭上からの殺気に気付き、痺れが走る。咄嗟に出したナイフを向けると金属音が響き渡った。

「っく、ひゃは、ひゃはははは!!」

別人格。直感でそう感じた。狂った笑い声をあげてナイフを振り回す。俺は思い切り腹部を蹴り上げる。一瞬の呻き声を上げてもすぐに立ち上がる。ナマエの意思があるのかはわからない。それでも俺は黙っていられなかった。振り下ろす手に無意識に力がこもる。

「俺の知ってるナマエはお前じゃないけどなぁっ、ナマエはお前しかいないんだよ!!」

「あはははっ、私は何も信じない!あの時死ねばこんな思いしなかった、自分が兵器になる事もなかった!!」

互いを傷つけて、何になるんだろうな。でもこうしないとナマエには届かない気がする。体を張ってぶつからない届かないんだ。でも迷いは消えない。俺はナマエを傷つけられない。俺の手からナイフが飛んだ。背中には強い痛みを感じる。壁に追い込まれていたのに気付く。俺の首元にナイフを向けたナマエは、確かに泣いていた。

俺がナマエを抱きしめると強く抵抗されて引っかかれた。嫌われてもいい、ただナマエが生きていればいい。それは変わらない。

「俺は…お前に嫌われてもいい。でもお前には生きててほしいんだよ……!」

自分の思っていた以上に声が上ずった。抱きしめる腕に力を込めた。逃がしたくない。

「嫌いになんて、なれないよ…」

ナマエの腕が俺の体を抱きしめ返す。ああ、不本意だけど今すっげー幸せだ。

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