あれから『Vシステム』を完全に削除して、私はバダップやミストレ、エスカバと共に提督に申し立てシステムのコピーを目の前で消してもらった。もちろん生き残りがないように徹底したつもりである(ただその時の私の表情があまりにも険しい鬼の形相だったらしい)。

…嘘は、ついてなかったと思う。提督の声色は悲しみを帯びていて、震えていた。私に膝をついて頭を下げるまでしたのだ。『君の両親は私が殺したようなものだ。すまない事を……』と。
多分、提督は私の両親に敬意を表していたのだろう。そんなような、気がした。

システムを完全に消すことはできても既に体がシステムを受け付けてしまっていれば戻せない。一生…殺人衝動に駆られるこの体と生きなくてはならない。私のほかにもたくさんの被験者がいた。全員が同じくらいの年。システムの罪の重さは被験者全員が背負わなくてはいけない。だから、私は……。

「どう?プログラム制作」

「っ、わ!ミストレ…」

モニターとキーボードに張り付くようにしていた私は顔を上げる。笑みを浮かべた彼は手にしていたマグカップを手渡すと大きな作業机に寄りかかる。一息ついてマグカップを手に取りながらモニターを見つめた。

「手伝えないよね、こればっかりは専門外だし」

少しむすくれながら私と一緒にモニターを覗くミストレの手が首に巻きつく。ミストレはいつだってこうして私の肩の力を抜いてくれるのだ。それにどれだけ救われてきただろう。

「…完成したら衝動もなくなるね」

「ご、めん…何度も殺そうとして…」

「でもいつだってナマエの自我で止まるでしょ」

それにね、と言葉を続けるミストレは私の左手を取って指に何かを通す。シルバーリングだった。

「殺されそうになったって離れる気ないからさ、予約しておくね」

ミストレの言葉をひとつひとつ噛みしめて、意味を理解する。顔に熱が集まった。恋人つなぎされている手にキスを落とされ、何も反論できない。
それだけ…私は、彼は、幼い頃の約束に支えられているのだろう。ミストレの笑顔がたまらなく愛しく感じるのです。

『あなたは座りました。自分の意思で数ある王座のひとつである、ミストレーネ・カルスの隣へと。しかしこの結末はひとつの終わりに過ぎないのです』

route.B:いつか、大人になった僕達へ