「ミストレ、お前がいけ!!」

バダップの怒声が響いてオレは言葉を発せなくなる。背中を合わせて体勢を整えるとエスカバに背中を押された。

「お前が一番ナマエの事分かってるんじゃねーの?」

被験者達を蹴りながら息を整える。オレは二人の言葉に頷いて扉だけを見つめた。

「「いっけぇええええええ!!」」

オレは二人の声を皮切りに地面を蹴る。呻き声と咆哮が混ざり合う。オレは戸惑いを振り払うように首を横に振って扉をくぐり抜けた。進んだ先のフロアには…鋭い目でオレを見るナマエが立っている。

「他の二人はどうしたの?…ああ、見捨ててきちゃったってわけ?」

システムの影響で作られた別人格。クスクスと笑うその姿に何も言えず、歯を食いしばる。オレはホルダーに収めていたダガーに手をかけ、ナマエに向かって振り下ろした。金属と金属が触れ合う音が響く。口元に笑みを浮かべた彼女は「そうこなくっちゃ」と一言声に出し、オレを薙ぎ払った。

「その目…怒りのこもった目!ゾクゾクしちゃうなぁ、ひゃははははっ!!」

ケタケタ、ケタケタ。笑い声には本当に殺し合いを楽しんでいるという狂気が滲み、何度も響くナイフの音が酷く虚しく思える。飛躍的に身体能力を上げたナマエは強い。それでもオレは…負けられないんだよ。

「っ、オレは守らなくちゃなんない!ナマエが忘れててもオレだけは!!」

「やく、そく…」

ナマエの瞳が言葉に敏感に反応してぐらりと揺らいだ。一瞬の隙ができる。その隙を逃す事のないように戸惑う事なくオレはナイフを持つ手を蹴り上げて、押し倒した。振りかぶったナイフを下ろすのに…迷いが出た。

「…私の負け。とどめ、刺せば?」

「……バカだ。やっぱりナマエは、バカだ」

思い出してくれたんでしょ?そう問いかければ突き放すように、知らないと言うように目をそむけた。昔から嘘が下手だった。何かを隠そうとする時に目をそらすくせは変わらない。それに、今だって泣いてるくせに。

「強くなったら、いつもナマエの隣でナマエを守る」

「知らない…っ!」

「ナマエが思い出してなくてもオレは約束、守るつもりだったよ。…強くなってもナマエがいなかったら守れないじゃん」

ナマエの顔が涙でぐちゃぐちゃになる。オレはそれを見ているだけっていうのが嫌でぼろぼろなナマエの体をなるべく痛くないように注意して包み込んだ。嫌がられるかなって思ったけどナマエの手が背中に回ってくる。

「ミストレは、私を一人にしないでくれるかな…」

ずっとじゃなくてもいいから。うまい答えが見当たる事はない。何も言う言葉は浮かんでこない。それでも笑うナマエの言葉を塞ぐようにキスをする。触れ合う体がやけに熱をもったような感じがした。

route.B:今、果たそう