まるで喪服のような黒い服を纏い、花束を手にしているバダップが見えた。手にしている花束はあまり派手なものではなく落ち着いた色合いの菊のような花だった。葬式のような姿だった。
私はお墓の前に花を供えて、手を合わせて少し目を閉じた後、バダップを見上げた。

「終わったか?」

「うん、ありがとう。…付き合ってくれて」

線香を供えて立ち上がる。少しだけ腹部に痛みが走って立ち上がりきる事は出来なかったけどバダップの手が私に伸びてきて支えてくれる。呆れ顔をする彼に私は苦笑いすることしかできなかった。

「まだ完治してないから安静にしてろと言われただろう」

「でも…早くここに来てあげたかったの。それくらいしかもう、できないんだから」

「…そうか。そう、だな」

あの日、自分を刺したあの後、バダップはずっと私のそばにいてくれた。病院に毎日顔を出して、付きっきりで看病してくれたのだ。私が目を覚ました時、バダップはものすごい剣幕で怒っていたけれど私の顔を見て溜息をひとつ吐いた。私の頭をくしゃりと撫でて『…よかった』と。あの時に私は紛れもなく幸せだと感じたのだ。

「何故あの時、自分を刺したんだ」

「…やだなぁ、分かってるくせに」

私はそっと腹部に手を当てて、胸に指先を滑らせる。痛みも傷跡も残っているけれどそれは全部私が生きているという証拠。二年が経ってやっと今、両親の墓へ来る事ができた。
花で彩られた墓の中で…両親は安らかに眠る事ができているだろうか。
私は生きてるよ。大丈夫。…私は今、生きてるから。

「私を殺さなかったんだから、責任とってくれるよね。…バダップ」

私がへらりと笑いながら眉間にしわを寄せている彼に言葉を放つ。少し呆れたような顔をして目を伏せたバダップは溜息をひとつ。口元を上げて笑った彼は私の指先に口づけをひとつ。しっかりとした腕に引き寄せられて、また頭を撫でられた。その度に私は安堵して、好きなんだと思い知る。

「それをお前が望むなら、な」

――…痛みも生体兵器としての生も、忘れない。可哀そうだとかそう言う言葉はいらない。私はそんな事これっぽっちも思っちゃいない。何もかも全部を含めて私と言う人間。それを受け入れてくれる人がここにいる。

私は信じよう。この先にバダップがいてくれる事も、バダップの隣にずっといられる事も。

『あなたは座りました。自分の意思で数ある王座のひとつである、バダップ・スリードの隣へと。それはほんの、ひとつの結末に過ぎないのです』

route.A:生き残りの進む道