まるで歓迎するかのようなその微笑に背筋が凍りつくような気がした。身にまとう覇気は殺意に満ち溢れているのが肌を通して伝わってくる。ぱちりとナマエが指を鳴らせばフロアには二十ほどの被験者の姿が現れ始めた。…手懐けている。

「…私は許さない」

ぽつりと呟く言葉はフロアに響き、反響する。耳に届いたその言葉で俺は何も言葉を発せなくなった。ゆらり、ゆらりと殺意が揺らめく中、ナマエの声が妙に響く。ああ、こいつはナマエじゃない。…『Vシステム』による人格障害だ。

「あの時死なせてくれなかったお前らを、許さない!」

鋭くこちらを睨みつける眼光からは何も感じられない。ただただ、その殺意に憎しみに圧倒されそうになる。腕を広げるのを合図に被験者達が一斉に襲いかかってくる。俺達はすぐに体勢を整えて迎撃用意をする。突然、ナマエが呻き声をあげた。

「っ、は…人格、コントロールでき、な…いっ、うぁ、あぁあああああああっっ!!」

必死に震える体を押さえる姿に手を伸ばす事は叶わない。被験者の群れが遮る。今手を伸ばさなくてはいけないというのに、それを分かっている上でわざと遮っているようにさえ感じた。不意にケタケタと笑うナマエの声が耳を突き抜けた。もう一つの人格、だろう。

「あは、あはははははっ!!追いかけてみなよ…皆殺しにしてやるからさぁ!!」

ナマエが奥の部屋へと姿を消す。邪魔だ、どけ。あいつのところへ誰かが行ってやらなければきっと最悪な結末になる。そう悟った。被験者は何度薙ぎ倒しても立ち上がってくる。キリのない戦闘にエスカバとミストレが声を上げた。

「っ、あれが俺達の知ってるナマエかよ!!」

「あれって『Vシステム』の副作用でしょ、バダップ!」

…あいつを、ナマエを助ける唯一の方法は語りかけることで諭し、自我を戻させることくらいだ。ただ相手はナマエだけではない。ここにいる俺達を襲う被験者もまた敵だった。一か八かの可能性に欠けるしかない…そう思った。

「…っ、これより次のうち一つの作戦を実行する!ルートA、俺が追いかける。ルートB、ミストレが追いかける。ルートC、エスカバが追いかける。ルートD、全員で残り、被験者の排除が済み次第に追跡!被験者達はキリがないが戦闘力は我々が優位だ。二人で十分だろう!」

さぁ、賭けを始めよう。俺達が勝つのか、お前が勝つのかを。

存在する選択肢