血の匂いが鼻についた。
ナマエを探してとうとう突き止めた一つの場所は何処だかも何の為のかも分からない研究所だった。
施設はロックされていない。ドアが開いた瞬間に腐臭が鼻を刺した。場馴れしている方とは言えど、吐き気が込み上げる。
目の前に広がったのは血の海と倒れている人たちの影。足を進めていくと何かを潰したような音と小さな息が耳に届いた。

『っ、最悪の場合…殺す事に、なるかもしれない』

あそこまで表情を歪めながら言ったバダップの言葉がやけに脳内で繰り返された。緊張からなのか手には汗が滲み、喉が渇く。ぞくりと背筋に電流が流れるような感覚がした。
汗の滲む手を拭い、手にしている銃を持ち直して慎重に行動する。

「…私は、何の為に生きてんだろ」

聞き慣れた声が酷く懐かしかった。その声は掠れて、弱々しくて別人のようだったけれど。曲がり角に身を潜めたオレ達に重く緊迫した空気が流れる。
この血の海の原因がすべてナマエの行ったものだったその時はやらなければならない。
必ずナマエを殺す事になるだろう、…オレ達の中の誰かが。気を緩めたら気が狂いそうなくらい、空気が悪い。

――いつからこうなってしまった。
今までずっと近くにいて、笑っていた。幼い頃を忘れていても、それでもよかった。
オレのことをわかっていなくてもナマエがいてくれさえすれば、オレは約束を守る事ができる。果たす事ができる。
一年前を思い出さなければきっと…こんなことにはならなかったはずだ。

唇を強く噛み締めて、曲がり角から全員で飛び出す。そこには誰もいなかった。正直、ほっとした。…壁に書かれた、血濡れのメッセージを見るまでは。「あの、バカ…!」エスカバが壁をぶん殴った。怒りで肩が震えていた。オレは何も言葉を発せずに、ナマエの望みを目にしていた。

『終わらせて』

その一言と矢印が一つ。進むべき方向、その先にナマエがいるのだろう。
矢印に従って足を進めた先にあったのは広めに作られたロビーとその奥の部屋へと通じる一つの扉。そして何よりも…『Vシステム』の被験者であろう人の死体の山、ナマエの姿。

血まみれの両手を広げて微笑むその姿。直感で、ナマエではないと確信した。精神を乗っ取られたような、そんな感じだった。
微笑むその顔は何処か涼しげで、もはや目の前にいるのは悪魔ではないかと、思った。

目の前にいる者を例えるならば