呆然と何かを眺めるその瞳に、以前のようなあの真っ直ぐな心はないように見えた。 町はずれにひっそりと建った研究施設。ちょうど一週間前にここにナマエが入っていくのを見て追いかけてきた。 …バレてないみたい。俺は少し深呼吸をしてナマエの様子をうかがった。 「…いつまで隠れてるつもり?」 いつもの軍服じゃない真っ白なシャツにズボンというラフな姿のナマエがすぐそばに迫っていた。俺の姿を見つけてもこれと言って驚く様子はない。つまりは一週間前から。 「…なんだ、バレてたか」 「君が私を追いかけてきたの、何度も見たからね」 何をしに来たのかとか、どうしてここにいるんだとか、そういう事をナマエは全然聞こうとしなかった。ただ、虚ろになったその目が引っ掛かる。気持ち悪い、ってわけじゃないんだけど…寒気がするって感じに近い。 前に話した時は傷だらけだったけど自分の意思を何処かで強くもっていたはずだったのに、今目の前にいるのは別人のように…何も生き甲斐などないと断言するような空気が流れているような気がした。 「……カノン、早くここから出ていった方がいい。…いや、出ていって」 「どうして?…最近ナマエおかしいよ!今だってそうやって、」 諦めたような顔してる。そう言おうとしたが言葉を飲み込んだ。不意にナマエがとてつもなく悲しんでいるような表情になって目を細めたから、何も言えずにいた。 ぽつりぽつりと小さな声が響いた。凛としていたあの声なんか感じさせないほどの感情のない声。 「もうすぐ、終わる。…全部、終わるんだ」 風が吹いた。頬に冷たい雫が当たる。雨が降ってもおかしくない灰色の空模様だったから雨かと思ったが、それは違うものだった。 ナマエはうっすらと笑みを浮かべていた。でも、じゃあなんで君は今泣いてるの? そんなことを聞けるはずもなく、俺はナマエに言われた通りにその場を後にした。 「――…さよなら、カノン」 聞こえた別れの言葉を聞こえないふりをした。本当のお別れの言葉みたいで俺には耐えきれないよ、ナマエ。 前後の相対 |