突然、ナマエがいなくなった。いつもの集合時間に来なかったから部屋まで行ったがそこには姿はなく、忽然としていた。
何も言わなかったし、何の前触れもなかったはず。なのに何故急にいなくなった?ナマエがいなくなってから既に一週間。俺やミストレやバダップの間には何処か重苦しい空気しか流れない。いつもこうだったか?いや違う。きっとナマエがいないからだ。
何故かは分からないが苛立ちを抑えきれなくて、この空気や静寂が気持ち悪く感じて、俺はテーブルに乗せていた足を思い切り振り下ろす。ガンッという大きな音が反響した。

「っ、俺は探しに行く!大体おかしいだろ、あいつに限って!一日二日ならまだしも一週間帰ってこないなんてあり得るか!?」

ざわつく。時間が経てば経つほど胸がざわついて嫌な予感しかしなくなる。
ミストレもさすがに眉間にしわを寄せて唇を噛み締めていたし、バダップでさえ深刻な表情で頬杖をついていた。バダップが何かを決心したのか腰掛けていた椅子から立ち上がる。「ナマエを探しに行く。…もしかしたら一年前の出来事に関連しているかもしれない」バダップのその言葉で俺はあの時を思い出した。


一年前のあの日。俺達は普段通りの道を歩いていた。そして聞いた。一発の銃声。すぐさま足を急がせて銃声のした場所へ辿り着いた。
そこには倒れている同い年くらいの少女の姿。呼吸はしているのか、微かにではあったものの息が白くなって見えた。

『…と、う…さん…か、さん…』

倒れている少女が薄く唇を動かす。胸からは大量の血。白い雪の上の鮮血はあまりにも映えて見えた。親を呼ぶ掠れ声。あまりにも痛々しかった。

人影が二つ、目の前に存在している。夫婦のような男女だった。手には銃口から煙を上げている銃。咄嗟に撃った犯人だと把握できた。
銃を撃った張本人である女はがたがたと拳銃を持った手を震わせていたが、表情はとても穏やかだった。『早く、あの子のところへ行ってあげなくちゃ』そう呟いた声は虚ろで、感情は感じられない。精神崩壊しているというのは目に見えていた。

『っ、や、めろぉおおおっ!!』

最悪の結末を想像した俺は叫んだ。想像した最悪の結末通りになってしまったその光景。俺達は可能性のある少女を急いで学園内の医療機関まで運んだ。…それが、ナマエだった。
…この前、ナマエに親に連絡すればいいだろうと言った事を後悔した。俺は、俺達は知っている。

「嫌な予感がするんだよ…!もしかしたらアイツ、っ」

「…オレも嫌な予感がするんだよね、…記憶を思い出してそうだって」

走り抜ける時にぼそりとミストレも呟いた言葉。何かを強打するような音が聞こえて振り返るとそれはバダップだった。壁にヒビが入る。表情を歪めたバダップが呟いた。「もし思い出していたとしたら、あいつはあいつじゃなくなっているかもしれない」バダップの次の言葉に俺達は息を呑んだ。お前は何を、知っているんだ?

「っ、最悪の場合…殺す事に、なるかもしれない」

望む幸福、望まぬ不幸