――…『Vシステム』
八十年前、石油王である人物によって作り上げられた強化システムを元に改良を加え、軍事用に開発されたシステム。ヒビキ、ミョウジ夫妻によって進められた研究。
目的はどの国にも劣らぬ兵士を作り上げる為。生体兵器として高い評価を得たが問題が存在した。

肉体に適合しない可能性がある事。適合しなかった場合は一切の感情を失い、殺すことで処分しなくてはならないリスクがあった。

適合しない条件が存在したが、明確ではなかった。そこで実験隊が必要となり、目をつけたのがミョウジ夫妻の娘であるナマエだった。
最初は賛成していた夫妻も死の可能性を知り、それを恐れた。そこで夫妻はサッカーへ目を向けた。娘を守る手段として。だが一方で娘はサッカーの虜になる夫妻に嫌悪感を覚え、軍への入隊を決意。

ナマエが適合する可能性は低い。それを分かっていた夫妻は思い切った行動へ移す。

『人殺しにさせるくらいなら…!』

殺シテ、シマオウ。


「分からないだろう?記憶を失った、いや、失わせたお前には。一年前、雪の降っていたあの日が」

「もし、かして、…胸の傷、は」

銃弾のような傷跡は、私を殺す為にお母さんが撃ったもの。ケラケラと響く笑い声が気持ち悪い。痺れている手が熱を持った。言葉を発する事も出来ないくらい息苦しくて、咽返るほどの血の匂いのする空気を吸い込む。

よろける体を支えて、私ははっきりとしない意識でかつての家に足を進めた。家は昔と何も変わってはいないのに、私の知らない別のものになっているように静かだった。そして悟った。私の帰る場所は既になくなっている事を。
後をついてきたヒビキ提督が私を見る。サングラスで見えないはずの目は、何処か寂しそうに目を細めている気がした。それを見るのが嫌で目をそらして足元を見下ろす。

「…その後は、どうなったんですか」

ヒビキ提督は何も口にしなかった。ただ一言、「生死は分からない」と告げるだけ。私は目を閉じて考えるのを諦めた。何もかもなくなったと思った喪失感はこれだったのだ。

――…もういい。もう、どうなってもいい。

できるなら今にでも奪ってください