私は生き地獄というものを目にしたのだと思う。ロックを解除された研究所から溢れた被験者達が住民を襲い出す。血の海が、出来上がっていた。
悲鳴の聞こえる方へ私は目を向ける。戸惑う事なく銃弾を撃った。頭を狙えば即死する事は人と同じだった。
返り血がべっとりとついていたが構わず襲われかけた親子を引き連れた。

「ここから真っ直ぐ下っていってください、早く!」

「っ、ひ、人殺し…!」

その言葉に私の思考が急停止した。呆然と動けない私を被験者が押し倒し、首を締め上げてくる。

「っ、あ、早く、逃げろぉおおおっ!!」

まるでその時から、私が私じゃないみたいに。押し返した被験者に弾丸を放てば血がぼたぼたとこびりついた。ぱしゃんと血溜まりを歩いて銃を両手にする。

「…被験者如きが、調子に乗るなよ」

違う、違う。私じゃない!!
拍手が耳に届いた。山積みになった死体の山の上から見下ろす先。バウゼン教官とヒビキ提督の姿。銃口を向けた私は我に返る。私は、被験者の人達を撃ち殺した…?

「素晴らしい!『Vシステム』で強化された被験者を全滅とは!!」

「…るさい、」

「これほどまでの能力なら他国も敵では…!」

「っ、黙れぇええええええっ!!!」

発砲する音。咄嗟に射線をずらす。撃つな、撃つな。体が上手く言う事を聞かない。脳と連携していない。

「コントロールも難しいようだな、ミョウジ」

「っ、何を…」

「…少し、昔の話をしてやろう」

ヒビキ提督の声が耳に届く。私は自分に麻酔を打ちつけた。こうでもしないと私はまた撃ってしまう。…殺して、しまう。ドクリと脈を打つ心臓が気持ち悪い。

「お前の両親と私はある研究を行った。それは今の状況を揺るがすもの。それこそが『Vシステム』だ。…システムを研究し、改良を重ねてとうとう完成させた。そして実験体で適合するか確かめなくてはならなくなった。その被験者の第一号が誰だか、分かるか?」

両親は軍に入る事を拒んだ。システムが使用されるのを恐れ、娘の関心をサッカーへと向けようと試みた。軍と無関係になればと思ったから。心臓が激しく暴れ出す。息が苦しくなる。その先の言葉を聞きたくは、ない。

「お前だ、ミョウジ。第一号の被験者であり、適合した被験者!」

事実は全てが幸福ではないのです