なるべく顔を見えなくするために普段着ないパーカーのフードを深く被る。手には手袋、護身用の麻酔銃を二挺。
この前も侵入したから警備体制が強かったけど何とかそれを掻い潜った。コンピューターにアクセスして私は真っ先に『Vシステム』の情報を外部メモリにコピーして、もし捕まった時の為にワープシステムで転送しておく。
そして私は、とうとう目にしたのだ。

「っ、そんな…嘘だろ、こんなのって…!」

『Vシステム』の正体、それは。
茫然と立ちすくむ私の耳に足音が響いた。追手が来てしまったらしい。足音が多すぎる。予想していたよりもはるかに。私は体勢を整え、開いたドアから入ってきた追手に銃口を向けた。
バチリと、全身に電流が駆け巡るのを感じるまで。

「また貴様か、ミョウジ」

「バウゼン、教官…っぅ!」

ずるずると麻痺した体を引き摺られ、放り投げられる。切れた口元から血の味がする。体は自由が利かない。バウゼン教官が薄く笑い、私の顎を持ち上げて耳元で囁く。ぞくりと寒気がした。

「見たのだろう、あのシステムを」

「っ、それにしてもシステムひとつに十分と厳重なロックでしたね。当たり前か、あんなシステム…!」

「聞きたい事があるんじゃないのか、私に」

動揺なんて少しも見せない。聞きたい事?山ほどあるに決まってる。私は私が見たものを信じられない、信じたくない。

「誰が、作った。何の為に!八十年前の石油王の作ったプログラムの改良版なんか…!実用している場所は何処だ!!」

「身の程を弁えろ、ミョウジ」

顎を掴んでいた手を離されて床に叩きつけられ、顔を踏み潰される。くぐもった声しか出せないし、屈辱的だ。乾いた笑い声が憎い、憎い。腹部を蹴り上げられ、嘔吐感が襲いかかる。咳き込んだ私を嘲笑う声がやけに大きく響いた。

「そもそもお前達オーガに期待などしていない。全ては提督のご指示。このシステムを作り上げる駒にしか過ぎない!」

全ては弱体化した今を変える為だと叫ぶ。それがあまりにも馬鹿馬鹿しく思えた。「良い事を教えてやろう」と、バウゼン教官のいやらしい笑みがちらついた。私は次なるバウゼン教官の言葉を耳にして振り解き、走る。実弾の拳銃を手にして。

「お前が解除したロックは被験者のいる研究所と共通だ。…どういう事か理解できるか?」

終わりの始まり