酸素マスクが吐く息で曇る。電子音は一定のリズムで響く。刺された針から体内へ流れ込む薬品。右手と右足はがっしりと固定されて、皮膚がピリピリと痛むのはかすり傷が布でこすれているからだろう。
私が寝ていたのは真っ白なベッドであり、私のいる一室はすべて白で埋め尽くされていた。そしてその一室にはベッドが十二台。チームの全員が一室にまとまっていたのだ。
見た事もない外の風景で、自分が隔離された病棟の中にいると理解する。動く左腕でキーボードを叩いていけば、ここはヒビキ提督やバウゼン教官の管理下ではないと知った。
呆然とする頭で記憶を辿る。あまりの酷さに吐き気さえ覚えた。

数週間に渡る期間の中、受けた拷問。身の毛もよだつとはまさにあの事。私の口から声を出して語る事は無理だと言い切れる。ただ頭の中で巡る回想。けれど、私はそれをトラウマとは思わなかった。過ぎ去った山。これで私達はオーガとしての使命から放たれるという事。これで私達は、私達の理想を掲げる事ができるのだ。

「目が覚めたのか、ナマエ」

「サンダユウ…大丈夫、なの」

「何言ってるんだよ、お前のほうがよっぽど重傷だ」

傷の重さを示すテープカラーは私のものよりも軽いもので心底安堵した。本当に、サンダユウが絞殺されると思ったから。縁起でもないわ、こんなこと。
目が覚めたのはまず最初にドラッヘ、ジニスキー。彼らは外傷は酷いものの、身体への影響が少なく、三日ほどで意識を戻したらしい。その次の四日目にサンダユウ。彼も同じく外傷が酷いだけらしい。六日目にはゲボーとブボー、ダイッコ。外傷は少ないが電気ショックによるダメージが大きかったそうだ。そして、七日目は私。四肢のうち二つの損傷、基本的に骨へのダメージが大きく、目覚めるのに時間がかかった。

「……あれから一週間経ったけど、一番重症なのはあいつらだな」

「バダップと、ミストレと、エスカバ?」

サンダユウは私の返答にこくりと頷いた。三人の眠るベッドを見れば、ガーゼは血が滲み、動いてしまわないようにか全身をベッドに括りつけられている。四肢を全て負傷したのだから、当り前だろうけど…。私は彼らの電子音を確認する。ちゃんと、一定のリズムで動いていた。よかった、死んで、なくて。

「おいおい、泣くなよ?こいつらが起きたら泣きついてやれ」

「泣いてなんか、ないよ」

「……これから、どうする?」

私はサンダユウの言葉に少しだけ戸惑った。不安がよぎり、押し潰されそうになったけれど、私は決めた。

「士官学校は続けるよ。自分の体を鍛える為にね。その傍らでこの学園の言う帝王学をひっくり返す」

「変えるのが今だとすればその根源を覆すってことか。ナマエらしいな」

それが一番だと思ったんだよ。そう言って車椅子に乗った私は外の空気を吸う為に病室を後にした。サンダユウが気ままな奴、って言ったけど、別に嫌じゃなかった。


目に付く一面の白は生を示す