『小隊とは三人から五人で構成され、実際の下級ミッションを行う為に編成される部隊の事を指す。編成に規定は特にない。他クラス、他学年問わず、力のバランスや傾向も問わないとする。再編成する事も許可されている。生死に関わると判断されるミッションに関しては提督及び教官に承認された小隊のみしか受理は不可能とす。』

彼らの小隊へ入った時、私は溜息を吐くしかできなかった。難解なあのプログラム。それを解除してしまったのが原因だったと思うとそれだけで気が重かった。
『提督及び教官に承認された小隊』とはまさしくバダップ、ミストレ、エスカバの揃ったこの小隊の事。
その小隊に入ってしまった以上、私は彼らと行動を共にする以外に選択肢がなかったのだ。
……それでも。嫌だと思っていたはずなのに楽しいと思えてしまう、この三人といる事が。慣れって本当に恐ろしい。

「ミョウジ、聞きたい事があんだけどよ、」

「エスカバ。…苗字で呼ばないで、お願い」

私は大嫌いだ。ミョウジっていうこの苗字が。どうしてこんなにも毛嫌いするのか私にも理解できないくらい、嫌い。
悪いって謝るエスカバに謝りたいのは私のほう。面倒な奴で申し訳ない。

「ま、それはともかく、だ」

急に気楽そうなエスカバの口元から笑みが消えた。一瞬にして空気が変わる。バダップの時と同じように。お茶の入ったグラスを取った私の手はぴたりと静止した。続けられたエスカバの言葉で。

「覚えてないのか、俺達がお前を助けた事」

「助け、た、こと…?」

全身が一気に震え出して、冷や汗が滲み出す。頭にガンガンと響く心音。私のすべてが、存在が、それを聞き入れる事を拒絶しているみたいに。

「一年前、入学したばかりの時にお前は、」

「エスカバ、多分それ人違いだよ」

言葉に詰まったエスカバは何かを言いたそうな顔で、表情を歪めていた。遮るようなミストレの声と私が滑り落としたグラスが砕けた音が重なった。バダップは私を覗き込んで怪我はないかと呟くと、砕けたグラスを拾い上げていく。空気が、重たかった。

そんな空気を打ち破るように、バウゼン教官が室内に入ってくる。その表情はとても張り詰めていて、始まりを告げに来たというのが全身に現れていた。

「『オペレーション・サンダーブレイク』、第二段階が提督により宣言された。すぐに準備しろ」

敬礼をし、私は脱いでいた軍服に身を包み、提督のいる一室へと向かう。足取りは軽かった。
あのタイミングでバウゼン教官が来た事に少しだけの安堵さえ覚えた。

「オーガ、出撃します」

バダップの声で、私を含むチーム『オーガ』は八十年前の過去へ飛んだ。

忘れた記憶の声は届かない