不動君とすれ違うたび、私はやけに意識してしまっているのだと痛感した。何回も何回も。自惚れに過ぎない事なのか、はたまた事実か。

駅でした、あの長いキス。嫌じゃなかった。むしろ私の中の不動君の存在は日に日に大きくなっていくばかりで今までのようには接する事が難しい。

(私は不動君が好きになったんだろう)

少しだけ感じた罪悪感を振り解く。…私はもう、新しい恋をしたっていいはず。あの人だって知らない女の人と幸せにしてたんだ、私だって。荷物を取って宿舎に戻ってきた私はグラウンドのベンチに腰掛けて練習を眺める。呆然としている私の額には鈍い痛みが駆け巡った。

「痛っ…!?」

「何間抜けた顔してんだよ」

デコピンをしてきた張本人は不動君。それだけで私は心臓を鷲掴みにされたような気がした。

「ふ、不動君は、」

私の事が好きなの、異性として。唐突に私が呟いた言葉は思っていた以上に小さな声。私は顔を上げられない。すっかり人のいなくなったグラウンドは夕日で赤く色づけられていた。

「バカか、お前」

「ご、めんなさっ」

不動君の声に反射的に謝罪の言葉を口にしようとすれば頭を撫でられた。何が言いたいんだろう、彼は。そう思った。「好きじゃない奴にこんなこと俺がすると思うか」顔をそらしながら不機嫌そうに不動君が言ったのは肯定の言葉。

「キスしても、いいか」

「へっ…えっと、あの…不動君の好きなように、」

「…やっぱりバカだろ、お前」