前よりはマシになったものの、あいつの目は少しうつろだ。未だに引きずっているのだろうか、前の奴の事を。そう考えると無性に腹が立ってボールを思い切り蹴っ飛ばした。

チーム全体の練習が終わり、自主練でもしてみるかと思い立った俺はボールを片手に宿舎裏へと足を急がせた。するとそこには佇む後ろ姿があり、小さく肩を震わせていた。滅多にこんな所にはいないはずの苗字の姿。

「…苗字、お前なんでこんなとこにいんだよ」

いつもより低い声で名前を呼ぶと苗字は急いで顔を拭った。

(…泣いてたのか、こいつ)

振り返る苗字はきっといつものように、「どうしたの、不動君」上ずった声でそう問いかけるお前に腹が立って肩を掴めばびくりと身を縮めた。涙でゆらゆらと揺れるその目を見ているのが心底嫌になって、そのまま苗字を抱きしめる。
何、してんだ、俺は。

「ふ、どうくん…私フラれて、それで」

「そんな奴より俺を、」

見てはくれないのか。言葉にする事は出来なかった。苗字の唇が微かに俺の唇に重なる。「ごめん、ね」呟いた苗字は目尻を押えながら走り去っていく。あのキスが忘れられなかった。