「ざまぁみろバーカ」

いつもの傲慢な不動君の声で目を開けようとしたけれど、目を開ける事は叶わなかった。彼がその後に続けた言葉に思考が止まってしまい、頑なに目を開ける事を拒んだのだ。

「人の気も知らねぇくせによぉ…」

どういう、意味なのか。問い詰めたい気持ちは山々なのに今の私にそんな行動をする勇気も気力も残ってはいなかった。つい先日、彼氏からのメールが入ったのだ。それが原因。私はそれがたまらなく嬉しかったからすぐに開封した。ディスプレイに映る文字に、私は絶句して割ってしまいそうになるほど強く握りしめた。

『好きな人ができた。別れよう』

ふざけた話だと思った。初めて憎いと思った。身勝手すぎて、何も言えない。彼は高校生で環境も違う。だからこうして離れてしまうのも仕方ない事なんだ。自己解決した私は震える指先でキーを押す。

『今までありがとうございました。私は、大好きでした』

送信ボタンを力強く押す。そんな自分の行動に虚しさを覚えて声を出して泣いた。そのせいで声は枯れている。

不意に、まぶたに温かさを感じた。小さなリップ音が薄暗い部屋に響いて耳に届く。パタンと扉の閉まる音を聞いて、私は恐る恐る目を開けた。不動君は、もういない。私はただただ、不動君のあのキスで頭がいっぱいだった。

(あれは、慰めのつもりだったのだろうか、)