珍しく、あいつが朝起きてこなかった。女子の話によると体調が悪いと言っていたらしい。

(…嘘、だな)

あいつのことだから体調が悪いくらいでマネージャーの仕事を休むとは到底思えない。何かあったんだなという方向に思考が向きを変えたのは6年間ずっとあいつを見てきたからだろう。

本当はこうしてあいつの部屋に来るつもりはなかったはずなのに、足はいつの間にかあいつの部屋に向かっていて気付けば扉の前。ドアノブを回せば拒絶される事もなくすんなりと扉が開く。無防備だと思い、イラついて舌打ちをひとつ。

部屋に入ると苗字はベッドに横たわっていた。本当に体調が悪かったのかと近付けば気付く不自然。あいつの目が真っ赤に腫れ上がっていて、寝言なのか知らない男の名前。なんとなく予想はできた。それで出てこなかったのか、くだらねぇ。

「ざまぁみろバーカ」

そう言って部屋を出るつもりだったが苛立ちが治まる気配はない。こいつはいつも俺のペースを乱す。だから、…嫌いだ。

「人の気も知らねぇくせによぉ…」

そんな皮肉を込めて、意地悪く涙ですっかり濡れてしまっていたまつ毛にキスを落とした。