不動君とお付き合いを始めて少し経って分かった事がある。彼はその、あれだった。がちゃがちゃと食器の後片付けをしているところに不動君がひょっこりと顔を出した。「名前、」と不意に自分の名前を呼ばれてどきりとした。今までが今まで、苗字だったから。

「キスしてぇ」

「っ、なな、何言ってるの、不動君…!」

周りに誰もいない時はいつだってそうだ。危うく皿を落としかけた。冷汗をじんわりと滲ませながら私は赤くなる顔を覆い隠す。そう、不動君はあれ、…キス魔とかいう部類に入るのだと思う。口を開けばいつもそう言って私を困惑させる。

「そんな事言ってないで…みんなお風呂入ってるんだから不動君も入ったほうが、」

「お前と入りてぇって言ったら?」

「な…っ!?」

がしゃんと音を立てて食器が水の中に沈んでいった。割れてなければいいなと思えるくらいになら思考はなんとか機能しているみたい。けれど私は口をパクパクと酸素を求める金魚みたいに動かして不動君を見るしかできなかった。

「嘘に決まってんだろ、真に受けんな」

「…ねぇ、不動君って意外と寂しがり、だったりするの…?」

そういうと彼は顔を真っ赤に染め上げて否定の言葉を並べた。そんなわけない、寂しくなんかない。必死に否定する彼に可愛ささえ覚えてしまった。顔を緩ませているといつものように額に一発デコピンが飛んできた。