やばい、やばいやばい、やばい。自分の直感が悲鳴をあげている。警告、警報、今すぐどうにかしなくては。

私の周りには気付けばたくさんの魔物達。ざっと見たところで十五体くらいはいる。

「っ、だああああああああああ!ごちゃごちゃうるさいのよバカ!!」

あいにくの事、私は剣術にも弓術にも向いてない。そう、魔術。魔術が主な攻撃方法だから詠唱時間がかかる。持ち前の足腰を生かして高所まで一気に飛びながら詠唱を始める。全部終わったところで一気に私は手を振りかざした。

「タイダルウェイブ!!」

断末魔の叫びが小さくこだまする中、私はひとつ大きな溜息を吐いてすぐに詠唱を再開する。半分は倒れても生き残っているかもしれない…そうそちらにばかり気を取られているのが悪かった。

背後から聞こえる雄叫び。振り向いた時には手遅れで鋭い爪が腕に食い込む。それと同時に魔物の血が舞い上がったのだ。黒髪の、自分より少し年上の背の高い青年が目の前に立っていた。

「おい、大丈夫か?」

「あ…ありがとう、助けてもらっちゃって」

青年は私に手を差し伸べると傷の様子を見てすぐに帰れと言う。さすがに深手だったらしく左腕は使いものにならないみたいだ。今度は気をつけて数人で固まれよ、とやる気のないように手を小さく振った青年はその場を去っていった。名前、聞きそびれちゃったなぁ、顔は覚えたけど。こんなところに来ているのならきっと旅でもしているんだろう。今度会った時に礼をしようと思いながら私はカプアトリムに戻る。戻っていると周辺の人達はある話題を持ちかけていた。

「極悪人ユーリ・ローウェル…ねぇ…」

今何故かその名の人物の話題が近所で広まっている。そういえばお尋ね者としてビラ配られてたっけ。悪人面のユーリ・ローウェルの顔の載っているというビラをぺらりとめくってみる。

…あれ、嘘。ちょっと待って、えっ?
そこに映っていたのは、確かにさっき、私を助けてくれた青年の顔だった。

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