誰にも深い感情を持ってはいけない。ある程度の距離を保つ事が大切。マルクト軍に入ったばかりの頃の私はそう思いながら人と接してきたのだ。表向きには笑顔を浮かべつつも深くは関わらない。それには最初から罪悪感を感じていた。

「第三師団へ異動する事に、ですか?」

「ああ、どうやら第三師団長直々のお呼び出しらしいぞ」

ピオニー陛下は口元を吊り上げながら外のベンチに腰かけていた私に報告した。第三師団、といえば死霊使いジェイドが師団長であるはず。何故わざわざ私のような新入りを?と陛下に問う。

「それはお前の実力が認められたからじゃないか?…先刻の大掛かりな戦闘では死人も出ちまったし、な」

すみませんと謝る私に、気にするなよと笑った陛下を見てズキリと胸が痛んだ。こんなに他人思いな彼にさえ、私は距離を取っている。足早に失礼しますと一言告げた私は逃げるようにその場を後にした。

呼び出された私はカーティス大佐がいるであろう執務室へ向かう。廊下を歩いている間に大佐の姿を見つけた私はカーティス大佐と名を呼んだ。振り向いた大佐は冷たい目線で私を見ると少しだけ口元をあげて微笑んだ。

「あなたがファースト・ファミリーですか?」

言葉を失ってしまった。あまりにも今の私と似ていたから。この人の笑顔は本当じゃない、嘘だ。何故だろう、何かが切れて溢れるような感覚。ああ、そうか。私はきっとこの人の代わりに少しでも本当に笑って向き合わなくちゃいけないなんて思ってしまったんだ。

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -