やっぱり、そうだったんだと。ユーリはエステルが。エステルはユーリが好きだったんだ。でもね、でもね。 私だって、ユーリの事が大好き、でした。 宿の外は激しく雨が降り続いている。地面に当たる水滴の音が大きい。目を覚ますと宿の部屋にはファーストの姿だけがない。ユーリが外に出てファーストを探そうとしたところ、ファーストは宿のすぐそばにいた。水浸しになってしまった服や髪の毛からは無数の水滴が零れ落ちていく。それでもお構いなしにファーストは佇んだままだった。 「何してんだよファースト、風邪ひいちまうだろ」 宿の中戻って着替えねぇと。ユーリはファーストの腕を引いて宿へと戻ろうとした。ただ、その瞬間にファーストの腕をつかんだ右手に鈍い痛みが走った。雨音で聞こえなかったのだろうか、手を振り払われたことに。 「…触らないで」 俯いたままのファーストはそう呟いた。長い前髪が垂れ下がっている為、ファーストの表情を窺うことはできない。 「どうしたんだよファースト」 そう言って一歩ファーストに近づいたユーリ。だがファーストは一歩後ろに下がった。苛立ったユーリはファーストの両手を掴んでこちらを振り向かせた。振り向いたファーストはぼろぼろと涙をこぼしていて。 「優しくなんかしないでよ…ユーリが近くにいると私、辛い…」 泣きじゃくりながら突き放すような言葉を放ったファースト。その言葉の裏に隠された意味を何となくユーリは理解した。 もう一緒に旅しないから。そう告げるとファーストは掴まれていたユーリの手を振り払い、何処かへと走り去ってしまった。ユーリは手を伸ばそうと、追いかけようとしたが彼女を追うことができなかった。ファーストはきっと大きな勘違いをしてしまったのだと、わかっているのに。 「ファースト…なんでだよ…っ!」 ユーリは歯を食いしばり、そばにあったレンガの壁に思い切り拳を叩きつけた。手の皮膚が剥け、血が滲んでいく。鈍い痛みが走った。 一度入ってしまった亀裂を、完璧に戻すことはできない。それはこの世の揺るがない事実。 |