風丸君が私の自主練を初めて見たあの日から既に一ヶ月。
ちょくちょく風丸君は私の練習を遠目から眺めていたようで時々ドリンク差し入れてくれたりとか。
すごく嬉しかった。今や私は『疫病神』。私に近付くのなんて親しい人くらいなのに。

ちょっと苗字。
聞きたくもない、呼ばれたくもない声が私の名前を呼んだ。
笑顔を取り繕ってどうかした?と振り返れば唐突に髪の毛を鷲掴みにされ、階段の踊り場へと引きずり込まれる。
そのままの勢いで背中を強く壁に打ち付けられ、残りの二人は私が抵抗しないようにか両腕を押さえつけた。

「この間、風丸君と話してたみたいね疫病神」

「…それが何?どういった関係があるのかなぁ」

「あんたみたいな疫病神が風丸君に近づくな!」

酷く醜い嫌味。そんなんだったら自分から話しかけなさいよ。そもそも私から話しかけてないし。
疫病神は何処か行きなさいよ。張り付いた笑みに吐き気さえ覚える。気持ち悪い気持ち悪い!

「苗字!?」

「かっ、風丸君…!」

風丸君の声が届いたのかすぐに手を離した女子はそそくさとその場を後にしていく。
大丈夫か、と差し出された手を、私は本能的に振り払ってしまった。

「だから近寄らないほうがいいって言ったのに。…自己防衛で精一杯だ、放っておいて」

私はそのまま走って外へと飛び出す。何故か分からないけど悔しくて涙が伝う。酷く冷たく感じた。
振り払わず甘えていたのは、私のほうなのに。見られたくなかったの、あんなところ。