カツン、カツン。鉄塔の階段を上ってくる音が耳に届く。 こんな朝早く来るくらいだからきっとあいつだろう。 目に付いた彼女の髪がさらりと揺れた。 「近寄らないほうがいいよ。…って、もう忘れちゃった?」 「本当に近寄ってほしくないならここにも来ないだろ」 揚げ足を取るようなことを言ってしまったけれど苗字はそれもそうだ、と軽く受け流したようだ。 「で、風丸君はサボリ?わざわざこんなところに呼び出して、何が聞きたいのかなぁ」 「お前が『疫病神』呼ばわりされる理由。今日は病院行くって言っておいた」 やんわりとした口調の中に含まれる刺々しさが俺に矛を向ける。 俺は重要な項目だけ述べると君って意外と不真面目なんだねと苗字が言った。 「呼ばれる理由、か。結構トラウマだから言いたくないんだ」 言わなくてもいいかな、ごめんね。 へらりと笑って言った苗字はそっぽを向いて鉄塔から地面を見下ろす。 私もサボっちゃおうかなと呟いた彼女は持っていたバッグを手に取ると踵を返して降りて行く。 彼女の足は学校とは違う方向へと進んでいった。 少し離れた頃合いに俺は興味本位で苗字のあとを追った。 |