「勇気君、勇気君!」



「っ、わわっ!」



肩を揺らされて目を開けると名前さんの顔が真横にどアップ。びっくりしていつになく間抜けな声を出して目を覚ませば鼻孔を擽るのは美味しそうな匂い。時計を見れば既に七時を回っている。おはようございますと言えば名前さんもにっこりと笑みを浮かべながら「よく眠ってたね」とくすくすと笑って、体を起こした俺と名前さんは食事の用意してあるリビングまで降りる。



「今日一日は荷物の整理に使っちゃうかなぁ」



「引っ越してきたばかりですからね、頑張りましょう」



名前さんが作ってくれた朝ご飯を口にしつつ、未だに部屋に積んである荷物を目にする。段ボールはまだ少し残っていて、きちんと整理するにはまだ時間がかかるのだろうというのは目に見えていた。高校、大学へと進んでも未だに続けているサッカー。ここ数年間の間、何も変わらぬ生活をしていたけれど、変わったのは今こうして名前さんと結婚して同棲生活を始めようとしているところだろうか。



「何だかんだでもう付き合い始めてから長いんだね、中学の頃からだもん」



「名前さんはずっと変わらないですね」



「ん、そうかな?でも勇気君は大人になったよなぁ」



そんな他愛のない話を続けて、繰り返して。結婚してもこうして過ごせるのが一番の幸せになるんだろう。「今まで通り、こうやって笑ってたいね」そう言った名前さんの言葉に俺は強く頷いて、左手に存在する指輪を眺めた。



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