教室の前に来たのはいいけれど扉の前で本当には言っても大丈夫か自問自答。風丸先輩に借りていた本を渡しに来たのだけれど、他学年の教室であるが故に戸惑ってしまっていた。「名前ちゃん?」聞き慣れた、基山先輩の声が耳に届いた。



「基山先輩、こんにちは!」



「こんなところまで来てるって事は風丸君に会いに来たのかな?」



彼なら今部室にと思うんだけど…と言ったタイミングで風丸先輩のシルエットが目に入った。「噂をすれば、だね」にっこりと笑った基山先輩は手を振っていってらっしゃいと一言。私は風丸先輩に駆け寄った。



「名前、どうかしたのか?」



「あ、はい。風丸先輩にお借りしてた本を返しに」



手にしていた本を渡すと少しだけ風丸先輩の指先が私の手を掠める。それに少しだけ驚いたのと同時に私は心臓を鷲掴みにされたような気さえした。お互いの顔を見合わせれば頬はほんのりと赤くなっている。付き合い始めて数ヶ月、未だに些細なことでときめくのだ。



「今度の休み何処か行こうかと思ってるんだけど、空いてるか?」



「えっ、あ、はい!今度の休み、私の部活もちょうど休みです」



近場しか行けないかもしれないけど、いつも部活ばっかりだったから。それは先輩なりの私への配慮なんだなぁなんて思えば何処かへ出かけようと言い出してくれた事さえも幸せで私は大きく首を縦に振る。はにかんだ風丸先輩が頭を軽く撫でてくれたことで私は更なる深みに嵌まるのだ。



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