言いたい事があっても正直に言えないという事は本当に損だと思った。だからこうしてあいつが俺じゃない奴に目を向けているのが現実であり、それが今まで言い出せずにいたツケなのだと納得してしまった。こんなつもりじゃなかったのに。



「…マーク、どうかした?」



「いや、何でもないよ」



不安そうに俺を覗き込んでくる彼女はそっか、と俯きながら呟いてココアを口にする。それからまた名前の口から零れ出すのは今付き合っている奴との話。所謂惚気だ。呆然とその話を聞き流してしまうのは無意識に聞き取るのを拒んでいるからだろうか。



(…本当は、聞きたくなんてないのに)



誰かと付き合っているという事実でさえ嫌で仕方がないのに正直には言えない。もしそう言ったとして今のこの繋がりが途絶えてしまったらと思うとこの繋がりに縋るほかないから。それでもなお、惚気続ける名前に心底嫌気がさす。



「ま、マーク、今…っ、」



すっきりとしない意識の中で広がったココアの味は、無意識のうちに動いて名前にキスを、してしまったものだったらしい。



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