サッカーができないかもしれない。その言葉は容易く一之瀬の精神を打ち砕いたのだろう。私は何も言えなかった。秋にも土門にも一之瀬は死んでしまったというしかなかった。私がこうして病院に来ているのは一之瀬に呼ばれているからであって。



「…本当に俺、サッカー出来なくなるのかな」



「らしくないね、一之瀬。…好きなら頑張ろうよ、そうすればきっと、」



もう一度できるから。そう言おうとした瞬間、ベッドに寝ていた一之瀬はすぐ横にあった花瓶を左腕で振り落とした。ガシャン、音を立てて花瓶が砕けて破片が飛び散って花はぐしゃぐしゃ。私は何も言えなかった。ただその破片を拾い上げることしかできなくて。



「名前には、わからないよね」



唇を強く噛み締めた。それじゃあ一之瀬にだってわからないよね、私がいくら思ったところで見ている場所が違うんだから。私が君をどう思っているのか、ずれた視点じゃ気付いてなんてくれない。破片が手のひらで滑ってぶつりと皮膚が切れた。赤黒い血がぼたぼたと垂れる。一之瀬は血の垂れる手を引いて私の耳元でそっと囁いた。



「同じ思い、してくれるよね」



足へと伸ばされた手に籠る力は驚くほどに強くて、それが一之瀬の事故に対する憎悪なのだと思えば、私の骨が軋んだ音を出した。



(あの子を選ばなかったのは正解だったと褒めてやりたいけど、それでは私が生贄同然だと、思った)



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